心 折れる



惨事は、今日の朝起こりました。


私が春にお店をオープンする場所は、私の祖父母の時代から両親まで二代で食堂をしていた場所です。
こつこつとお店作りの準備を始めてるんですが、今日の朝、業者さんが
古くなった冷房や、いらないものを取りに来てくれました。

大きな昭和の冷房は、背丈も高く大きい冷蔵庫ぐらいのサイズ。
電気屋さんに見積もってもらったら、びっくりするほどお金がかかる。
私は、少ない資金でなんとかしようと考えてるので、でっかいじゃまな冷房もお得意の色塗り替えで、オブジェにしようかと諦めてたら、うちの個性的な母が、どこでひっかけてきたのか、個人でやってるおっちゃんを連れてきた(笑)
とても良心的で、常識を覆す破格で交渉できたらしい。

そして今日の朝おっちゃんはやってきました。

私は、ここんとこ仕事が忙しく、寝不足続きでした。
今日だけ、朝用事がなくゆっくり睡眠をとれる日だったので
夜のうちに、作品を移動したり、おっちゃんが作業できるように場所をあけときました。

朝、目覚めて店に行こうとしたら、母が
「え?あんたいてたん? 今日出張ってゆってなかった?!」

「それは昼から。朝ゆっくり寝るってゆったやん。」

「ちょっと、大変な事なってん・・・」

母が深刻な顔。

「どうしたん?」

「あんたのエッフェル塔が・・・・・・・。」

私はまさかと思いすぐ店にむかったら、私のエッフェル塔が残酷に
グシャグシャに壊れてました。

気絶しそうでした。

何がどうなってこうなったん?!

わけが分からなく、涙と震えが込み上げる。

母がきて説明した。
おっちゃんが、一人で無理に冷房を動かそうとした時、思わぬ方向にたおれて直撃したらしい。

「おっちゃん、あんたに直接謝るって言ってるから、聞いたげや。」

いや、無理。
謝られても元に戻らない。
あのエッフェル塔には、パリでの思い出や、その時降ってきた構想や、さまざまな想い入れがある。
たとえ100万積まれても、譲れない。
私の店のシンボルに飾ろうと考えていた。
私は、怒りの感情ではなく、大切なものを失った心が痛いだけ。
壊れた無残な姿を見て、エッフェル塔が痛そうで悲しかった。

私は一人、作業場にこもって鍵をしめて、泣いた。

この想いをどこにもっていけばいいのかわからず、気が狂うぐらい泣いた。
自分の体の一部がちぎれたみたいな感じ。


そして、後で謝りにくるおっちゃんのことを考えた。
多分、相当へこんでるはずだ。
朝、立ち会わなかった私も悪い。

でも、実際おっちゃんを目の前にしたら・・・
会う勇気がなかった。
私の口から、おっちゃんを傷つける言葉が出るのを恐れた。
私は、このおっちゃんを責めず、自分の心がどうすれば立ち直れるか
方法を探った。
出た答え。


もう一回、作るか。


それしかない。


あれに費やした、膨大な時間と労力を考えるとめまいがするけど
もう一度作ろう。

今度は、もっとうまく作れるはず。


そしておっちゃんが戻ってきた。

私を見るなり

「ごめんなさい。お母さんから、大事なものやって聞きました。
おっちゃん、壊そうと思ってやったんじゃないねん。
弁償します。本当に、ごめんなさい、許してください。」

と、頭を下げられた。

「気にしないで下さい。また作ればいいだけなので。」

その言葉を言った瞬間、少し楽になった。

おっちゃんは、許してもらえないと思ってた、と心底安心した様子でした。
私も、おっちゃんを傷つけなくてすんだことにホッした。


壊れたら、直す。
失くしたら、取り戻す。

これからの人生、私はもっともっと辛い経験をするだろう。

だから、こんなことぐらいでへこたれるわけにはいかない。

例え、次のが壊れても、私はしぶとく三代目エッフェル塔を作るだろう。



この出来事は、悲しい事件ではなく、
きっと神様が与えてくれた、もっといい作品を生み出す為のチャンスなのかもしれない。





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